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宇都宮地方裁判所栃木支部 昭和43年(ワ)6号 判決

主文

被告は、原告田辺真二に対し金一、二一四、〇〇六円およびこれに対する昭和四二年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告田辺文江に対し金二〇〇、〇〇〇円およびこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員を各支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告田辺文江および同田辺真剛と被告との間においては、被告に生じた費用の三分の一ずつをそれぞれ原告田辺文江および同田辺真剛の各負担とし、その余は各自の負担とし、原告田辺真二と被告との間においては、被告に生じた費用の三分の一および原告田辺真二に生じた費用を二分しその一を原告田辺真二の、その余を被告の各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告田辺真二(以下単に真二と略称する。)に対し金二、六九九、〇三八円、原告田辺文江(以下単に文江と略称する。)に対し金六〇五、五〇〇円、原告田辺真剛(以下単に真剛と略称する。)に対し金五二五、〇〇〇円とこれに対するいずれも昭和四二年九月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告真二および同真剛は、昭和四二年九月二九日午前八時四〇分栃木県下都賀郡野木町大字丸林三二九番地の一先町道丁字路において、原動機付自転車に乗車して進行中、訴外菊地淳一運転の自動車と衝突した。

右衝突の原因は、原告車が右丁字路の左側を進行し、徐行しながら交差点へ出ようとしたのにかかわらず、訴外菊地は四〇キロメートル毎時以上の速度で道路右側を進行し右側の見透の効かない右丁字路交差点に、警笛を吹鳴することもなく進入したことによるものである。

2  被告は右訴外菊地運転の自動車を所有し、同人を雇傭して使用しているものであり、被告の営むタクシー業の仕事に従事中の事故である。

3  右衝突により、原告真二は右第七、第八肋骨骨折、右手掌前腕挫創、右上前腕、左肩胸部、背部、右足挫傷、頸部捻挫の、原告真剛は頭部、顔面挫創、右脛腓骨開放骨折の各傷害を負い、原動機付自転車も損傷を蒙つた。

4  原告真二が蒙つた損害額は次のとおりである。

イ 入院および治療費(原告真剛分を含む) 金七五三、八三八円

ロ 家政婦報酬として 金四八、九六〇円

ハ 入院中諸雑費 金一五〇、〇〇〇円

ニ 通院交通費 金八三、一〇〇円

ホ 逸失利益 金一、一五五、〇〇〇円

ヘ 慰藉料として 金五〇〇、〇〇〇円

ト 原付自動車修理費 金八、一四〇円

以上合計金二、六九九、〇三八円

5  原告真二の妻であり、同真剛の母である同文江が蒙つた損害額は次のとおりである。

イ 付添料 金二五、五〇〇円

ロ 逸失利益 金二八〇、〇〇〇円

ハ 慰藉料として 金三〇〇、〇〇〇円

以上合計金六〇五、五〇〇円

6  原告真剛が蒙つた損害額は前記4イに含まれるものの外、次のとおりである。

イ 退院後の医療費 金一九、〇〇〇円

ロ 通院交通費 金四、〇〇〇円

ハ 慰藉料として 金五〇〇、〇〇〇円

以上合計金五二三、〇〇〇円

よつて、原告真二は被告に対し右損害金合計金二、六九九、〇三八円、原告文江は被告に対し右損害金合計金六〇五、五〇〇円、原告真剛は被告に対し右損害金合計金五二三、〇〇〇円といずれもこれに対する右損害発生の日である昭和四二年九月二九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  原告主張の日時に被告会社所有の自動車が原告車に衝突したことは認める。

2  被告が訴外菊地を雇傭し使用していたこと、および本件事故が被告の営むタクシー業の執行中発生したことは認める。

3  原告ら主張の原告らが蒙つた損害額を否認する。

三  過失相殺の主張

原告真二および同真剛は原付自転車に二人乗りし、前記丁字路交差点で一時停止するのを怠つた。

四  抗弁

原告真二は、昭和四三年九月一三日日産火災海上保険株式会社から原告真剛分の自動車損害賠償責任保険損害賠償として合計金五四七、〇九四円、原告真二分として金五〇〇、〇〇〇円の支払を受けている。

第三証拠〔略〕

理由

第一被告の責任原因

昭和四二年九月二九日午前八時四〇分被告所有の自動車が原告車に衝突したことについては、当事者間に争いないところである。

〔証拠略〕を総合すると次の事実が認められる。

原告真二は右日時原告真剛を後部に乗車させて原動機付自転車を運転して、栃木県下都賀郡野木町大字丸林三二九番地の一先道路を進行していたものであるが、同所は南北に通ずる直進路とこれに四方から直角に交わる丁字路をなしており、原告真二は右西方に通ずる道路の左側端を東上し、右丁字路交差点にさしかかるや、徐行して左折しようとしたところ、右南北に通ずる直進路の北方から南下して来た訴外菊地淳一運転の自動車と衝突した。

右交差点は交通整理は行われておらず、付近の道路の両側は、当時高さ約二メートルの雑草が生い茂つていて、左右の見通しがきかず、幅員約五・二五メートルの南北道路の西側は約一・一メートルまで覆いかぶさり、有効幅員は約四・一五メートルであつた。

右のような交差点を北から南へ直進しようとする場合、自動車運転者は道路左側を進行するは勿論、警笛を吹鳴しながら徐行して通過し、もつて事故の発生を未然に防止すべき義務があるのにかかわらず、訴外菊地は南北道路の右側部分を、北方から約四五キロメートル毎時の速度で、交差点から十分距離を置いた手前の地点で警笛を吹鳴することなく進行した過失により、西方へ通ずる道路から東上し左折しようとして交差点へ進入した原告真二運転の原動機付自転車と衝突したものである。

〔証拠略〕によれば、右衝突により原告真二は入院五一日間、通院加療約二カ月間を要する右第七、第八肋骨骨折、右手掌前腕挫創、右上前腕、左房胸部、背部、右足部挫傷、頸部捻挫の、原告真剛は頭部、顔面挫創、右脛腓骨開放性骨折の各傷害を負つたことが認められる。

原告文江が同真二の妻であり、同真剛の母であることを被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

被告が訴外菊地運転の自動車を所有していたことは当事者間に争いがないので、被告が右自動車の保有者であることは明らかである。また、被告が訴外菊地を雇傭し使用していたこと、および本件事故が被告の営むタクシー業の業務執行中発生した事故であることは当事者間に争いがない。

そうすると、被告が右事故により蒙つた原告らの損害を賠償する責任のあることは明らかである。

第二原告らの蒙つた損害額

一  原告真二について

1  財産的損害

イ 入院費および治療費

〔証拠略〕によれば、原告真二が本件事故により受けた前記傷害のため入院費および治療費として金一二三、〇二五円が必要であつたと認められる。〔証拠略〕によれば、古河整形外科病院(医師杉村貞男)における入院費および治療費としての右金員以外に、宇都宮の滝沢病院および高瀬医院における治療費が支出されていることは窺われるが、右治療費としていか程の金員が支払われたかを認めるべき証拠はないので、これを算入しない。

ロ 付添看護費

〔証拠略〕によれば、原告真二が前記古河整形外科病院に入院した五一日間付添看護人が必要であり、付添看護料は、一日一、二〇〇円が必要とされるから、合計金六一、二〇〇円を要したと認められる。

ハ 入院中雑費

〔証拠略〕によれば、前記古河整形外科病院に五一日間入院し、その間一日一、〇〇〇円合計金五一、〇〇〇円の雑費を要したと認められる。

ニ 通院交通費

〔証拠略〕によれば、前記古河整形病院への通院のため、交通費として金一、二六〇円を要したことが認められる。〔証拠略〕によれば、宇都宮の滝沢病院および高瀬医院へ通院するための交通費も要したことは認められるが、その額を確定するに足りる証拠はないから、これを算入しない。

ホ 逸失利益

〔証拠略〕によれば、原告真二は月収八〇、〇〇〇円に相当する稼動能力があるのに、本件事故により一六カ月間は全く稼働できず、その後の一二カ月間は月収二〇、〇〇〇円程度しか稼働できなかつたこと、したがつて、本件傷害により合計金二、〇〇〇、〇〇〇円の収入を失い、必要生活費二分の一を控除すれば、金一、〇〇〇、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したと認められる。これを本件事故発生時に支払を受けたものとして、ホフマン式により民法所定の年五分の割合による中間利息を控除すれば金九七七、五二一円ということになる。

以上合計金一、二一四、〇〇六円が本件事故により原告真二が蒙つた財産的損害額である。

被告は、原告真二が同真剛と自転車に二人乗りをし、交差点で一時停止を怠つた過失があると主張するが、右二人乗りは違法であつても、原告真二の損害発生とは因果関係がなく、また本件交差点において一時停止すべき法的義務はなく、前記のように原告真二は徐行義務は怠らなかつたことが認められるので、被告の右主張は採用しない。

2  非財産的損害

〔証拠略〕によれば、原告真二は妻子のある壮年の男性で、新しい商売を始める準備をしており、あと一週間で開業することになつていたこと、および頭痛等の後遺障害が残つていることが認められ、これと前記本件事故の態様および傷害の程度等に鑑みると、原告真二に対する慰藉料は金五〇〇、〇〇〇円が相当である。

そうすると、原告真二が本件事故により蒙つた損害額は合計金一、七一四、〇〇六円となるが、同人が自動車損害賠償責任保険損害賠償として金五〇〇、〇〇〇円の支払を受けていることを同人は明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、右金額を控除すると、被告が原告告真二に支払うべき損害額は金一、二一四、〇〇六円である。

二  原告文江について

1  財産的損害

イ 付添料

〔証拠略〕によると、原告文江が同真剛および同真二の入院中八日間付添看護をしたことは認められるが、これに要した費用は同人固有の損害額ではなく、原告真二か同真剛の負担に帰すべきものであり、本件においては前記のように原告真二の損害額として算入したから、同文江の損害額としては算入しない。

ロ 逸失利益

本件全証拠によるも、原告文江に固有の得べかりし利益があり、本件事故によりこれを失つたことを認めるに足りる証拠はない。

2  非財産的損害

前記のように、原告文江は同真二の妻であり、同真剛の母である。そして、〔証拠略〕によれば、原告真剛は本件事故当時五才であつたことが認められる。これらの事実と前記事故の態様および各傷害の程度等を考慮すると、原告文江に対する慰藉料は金二〇〇、〇〇〇円が相当である。

三  原告真剛について

1  財産的損害

イ 医療費

〔証拠略〕によれば、前記傷害の医療費として原告真剛は金一〇三、三三〇円を要したことが認められる。〔証拠略〕によれば、古河整形外科病院に支払つた右金員の外、宇都宮の滝沢病院等において医療費を要したことが窺われるが、右金額を確定するに足りる証拠がないので、これを算入しない。

ロ 通院交通費

〔証拠略〕によれば、古河整形外科病院への通院費として金一、九八〇円が必要であつたことが認められる。〔証拠略〕によれば、宇都宮の滝沢病院等への通院交通費も要したことが認められるが、その額を認めるに足りる証拠はない。

前記のように原告真剛は原告真二の運転する原動機付自転車の後部に二人乗りしていた。あるいは保護者がこれを容認していたことが認められ、この過失行為は原告真剛の損害発生に因果関係を有し過失相殺の対象たる事実となるというべきであり、その過失の割合は原告真剛が二割、被告が八割とみるのが相当であるから、被告は右財産的損害合計金一〇五、三一〇円のうち金八四、二四八円を負担しなければならない。

被告主張の原告真剛乗車の自転車が交差点で一時停止するのを怠つた点については、原告真二に関する部分で述べたとおり、これを原告側の過失として採用することはできない。

2  非財産的損害

前記原告真剛の年令、本件事故の態様、双方の過失、傷害の程度等に鑑みると、原告真剛に対する慰藉料は金四〇〇、〇〇〇円が相当である。

そうすると、原告真剛が本件事故により蒙つた損害額は合計金四八四、二四八円となるが、同人が自動車損害賠償責任保険損害賠償として金五四七、〇九四円の支払を受けたことを同人は明らかに争わないから、これを自白したものとみなし、これと前記損害額を損益相殺すると、原告真剛は被告にに対して有する損害賠償請求権は存在しないこととなる。

第三結論

そうすると、原告真二の被告に対する本件請求は、損害賠償金一、二一四、〇〇六円およびこれに対する右損害発生の日である昭和四二年九月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、原告文江の被告に対する本訴請求は、損害賠償金二〇〇、〇〇〇円および右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、いずれも理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、原告真剛の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 和田忠義)

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